アルカディア・ダレルと敗れ口

2万年後の銀河

アルカディア・ダレルと敗れ口

Yi Yin

アイザック・アシモフ 『ファウンデーション三部作』
 第1作 『ファウンデーション』
 第2作 『ファウンデーション対帝国』
 第3作 『第2ファウンデーション』



 アルカディア・ダレルは、八十二年二ヶ月の生涯でした。生まれは、ハリ・セルダンとウォンダ・パルヴァー(セルダンの孫)に『星界の果て』と暗示された、銀河のかつての中心都市トランターであったのですが、空間的最果ての、紫の星ターミナスで生涯を終えることになりました。

 いわば、たった一人で敗れ口に立った少女の物語です。

 原作者のアイザック・アシモフは、「銀河系の反対側の端はどこにあったのか?」(『第二ファウンデーション』p.356)の暗示を三部作を閉じる前に、サービス精神を発露しています。

 今日、殺伐とした毎日を生きぬかなければならない私たちにとって、明日に繋げる道を、必死に暗中模索しなくてはならない状態が続いております。

 かつて、哲学者ヤスパースは、古代文明がいったん滅んで、殺伐とした混沌から新たな人類の精神の曙光をみた四人の時代を「車軸時代」(紀元前八百年から二百年に活躍した孔子、ソクラテス、釈迦、エゼキエル)と呼びました。

カール・ヤスパース

生年月日: 1883年2月23日

出生地: ドイツ オルデンブルク

死亡日: 1969年2月26日, スイス バーゼル

 その一人、エゼキエルが神の代弁者として悲痛な言葉を発しています。「私の前に、破れ口に立つ者を探しても誰もいなかった」と嘆いています。

 アシモフのいう「反対側」とエゼキエルの「破れ口」。同じ意味だと強く思うのです。

「私がこの地を滅ぼさないために、石垣を築き、私の前で破れ口に立つ一人の人を、私は彼らの中に探したが、見つからなかった。そして私は彼らの上に私の憤りを注ぎ、私の怒りの火で彼らを滅ぼし尽くし、彼らの行ないを彼らの頭に報いた、と主、ヤーウェが言われる」

(エゼキエル書、第22章30~31節)

 単なる善悪の分裂(いいとかわるいといった決めつけは自分と他を傷つける)で決めつける安易な生き方が問われていると思うのです。もうひとりの自分と親しく対話して行く。自分の痛み、隣人の傷、社会の歪みをまず身に帯びる、根本的生と意味を知ることが急務と思いますし、そのことを皆さんとさらに考えて行きたく思い、ダニールからアルカディアに至る四百四十年の物語の結語とさせていただきます。

yatcha john s. 「アルカディアと敗れ口」

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