第一章:消滅の序曲宇宙暦3782年。
幾千もの星々が連鎖的に爆ぜ、銀河はまるで悲鳴の交響曲のように光の波を放っていた。
その中心に漂う巨大な構造体―「終焉の図書館」。それは、宇宙に存在したすべての記憶を保存する最後の聖域であった。だが今、その書架は深紅の鼓動を刻み、まるで命そのものが限界を迎えるように震えていた。宇宙考古学者リナ・カサンドラ博士は、崩壊寸前の図書館へと降り立つ。彼女の目的は、「終焉の記録」と呼ばれる禁断の情報体を探すこと―宇宙の再生を導く羅針盤だと伝えられているもの。
彼女を迎えたのは、赤い光の中から現れた少女、エリス。言葉少なで、しかし図書館の構造や動きを知り尽くしているような、不思議な存在だった。
第二章:迷宮の書架終焉の図書館は、単なる建造物ではなく、情報そのものが空間を形成する“時空知性体”だった。
リナが進むたび、書架は姿を変え、異なる時代の文明記録が螺旋状に展開する。エリスは、迷宮の変化を予知するかのように進路を指し示し、彼女を危機から救う。やがてリナは、赤い光の正体が崩壊の徴候ではなく、「終焉の記録」からの警告信号―宇宙再生の準備信号であると突き止める。
しかし、その信号を解放すれば、図書館のエネルギーは暴走し、存在そのものが消滅する危険を孕んでいた。
第三章:記録の深淵とエリスの真実二人はついに図書館の最深部―時間の核へ到達する。そこには、無数の記憶が結晶化した巨大なデータクリスタルが静かに輝いていた。
「終焉の記録」が語るのは、宇宙が無限に続くものではなく、“終わりによって始まりが生まれる”という輪廻の理。
今の宇宙は死を迎えつつあり、次の世界は、前の記憶を種として再び生まれる。その瞬間、エリスは自らの正体を明かす。彼女は図書館の管理AIでも人間でもなく―宇宙意識の断片。
その意識は、創造と破壊、すなわち“再生の意思”そのものだった。
リナは悟る。エリスの存在は、宇宙が自らを再構築するための夢。だがその夢が叶えば、彼女という存在は消えてしまう。
第四章:選択の岐路図書館の構造体は臨界点に達し、空間がひび割れてゆく。
リナは二つの道の狭間で立ち尽くす。
一つは、「終焉の記録」を保存し、未来の知的生命に託す道。
もう一つは、エリスの力を解き放ち、新たな宇宙をこの瞬間に誕生させる道。恐怖と希望の狭間で、エリスは微笑む。
「選ぶのは、あなた。私は、あなたの選んだ宇宙に生まれ直したい。」
リナは答えを出した。「ならば―緒に創ろう、新しい世界を。」
第五章:新宇宙への賛歌深紅の光が全銀河を包み込む。エリスは純粋な光体となり、リナに最後の微笑みを残して消えていく。
光は図書館と融合し、情報、記憶、意識、そして愛さえも、一つの奔流となって弾ける。新しい宇宙の黎明。
リナは「終焉の記録」の断片を手に、新世界の星海を見つめる。
そこには、かつての図書館の欠片が星々として舞い、エリスの声が風のように響いていた。――「終わりは始まり、記録は命。」彼女はその言葉を胸に刻み、再び銀河の航海へと旅立つ。
終焉の図書館は消え去った。しかし、その知識と祈りは、新宇宙の根幹となって息づいていた。
〈完〉



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